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対象のKマンション
神奈川県横浜市、丘陵地の中腹に1995年建設された、鉄筋コンクリート造6階建て、120戸弱、竣工は1995年。閑静な住宅街にあり、陽当たり・通風・眺望が良好なファミリーに人気のマンション。
きっかけは紹介から
とあるマンションで業務を実施していた翔設計の担当者と居住者が交わした何気ない会話がスタートだった。
「友人のマンションなんだけど、大雨のたびに雨水が溜まって、ひどい時は1階が床上浸水してしまうらしいんだよ。その後、何社かで調査してるのに全然原因がわからないみたいでさ、翔設計で相談にのってあげられないかな?」
確かに近年、大雨のレベルがひどくなってきている気がするが、周辺地域で内水氾濫は発生していないようなので、そのマンションだけの現象らしい。まずは状況を伺う必要があるので、ご友人に名刺を渡してご紹介いただくようにお願いしたところ、後日Kマンションの理事長から相談が持ち込まれた。
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度重なる原因不明の雨水排水不良
Kマンションでは築7年目程度になる建物で、竣工後1~2年に1度の頻度で大雨の際、ドライエリアにおいて雨水が排水されずプールのような状態になり、1階住戸が床上浸水を起こしていた。
「ドライエリア」というのは、建物の地下部分において、外壁の周囲を掘り下げて設けた空間のことで「地下の庭」のようなスペースであり、地面よりも下の空間なので、雨水が流れ込みやすく、それを考慮した設計になっているはずである。
参考:ドライエリア (他マンションの例)
管理組合はこれまで原因究明のため、管理会社や元施工の建設会社、複数の一級建築士設計事務所に相談し、排水流量計算の検証や排水桝や排水管等を調査したが、問題は見つからず、現象は解決しなかった。
そればかりか、直近では1階住戸の専用庭の至る所で陥没が生じ始めており、土が雨水に流されているのではないか、とさらに不安を募らせていた。
専用庭の陥没
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雨水排水不良の原因はどこに
既存図面や過去の調査資料などをひと通り確認したうえで、改めて排水流量計算と排水経路の調査、建物の不同沈下、ドライエリアの擁壁調査等を行い、排水量や排水経路の確認を行った。
しかし調査の結果は基本的に過去実施された調査の結果とほぼ同じであった。
つまり建築と設備の面では原因が特定できなかったのだが、翔設計の技術陣は諦めなかった。 -
諦めない
翔設計は社内に建築・設備・構造の専門部署を持つ総合コンサルタント会社である。 一般的には、排水不良であれば建築と設備で原因が特定され、根本的改善に着手できるのだが、今回は原因がわからなかった。 そこでこの状況を社内の構造担当と共に再検討したところ、ついに気になることを発見した。この建物の基礎に柱状改良杭が用いられていたのである。
柱状改良杭というのは、地中に円柱状の改良杭を建物基礎の下に打設し、建物荷重を支持する地盤改良工法であり、このKマンションにおいては地面の下に水を透過しない柱が密に施工され、水が逃げない水槽のようになっていた。
そのため、地中に浸透する水の量が限られてしまい結果として大雨の際に排水不良につながっていることが判明した。
構造担当の目線で状況を変えることができた。 -
もう一つの問題、1階住戸の専用庭の陥没
雨水の排水不良の原因探求と同時に1階住戸の専用庭で発生している陥没についても調査を実施した。
このKマンションは丘陵地の南側斜面の中腹を造成して建てられており、1階専用庭の先には擁壁が設けられていた。
庭によっては、50cm程度地盤沈下している箇所もあり、管理組合では、擁壁から又は水みちから土が流失しているのではないかと疑っていた。
これも、構造設計者が構造図面を確認し、専用庭は、耐圧盤と擁壁に囲まれており、土の流失ではないことが判明した。
擁壁
Kマンション専用庭の模式図
上の模式図に示すようにKマンションの専用庭は、耐圧盤と擁壁に囲まれたところに埋土を使用しており、この埋土において圧密沈下を起こしていると判断した。
さらに、今回は圧密沈下量が非常に多いことから、施工時の土の締固めをしっかりしていなかったか、建築ガラ(建設廃材)が埋められていると想定された。 ただし、建物の構造上問題となるようなことには関係しないことが判明したため、管理組合の不安は解消することが出来た。
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改修の実行
雨水排水不良、そして専用庭の陥没は、どちらも原因が判明したことで、解決のための改修方法が明確になった。
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雨水排水不良
①既存の排水ルートや勾配が適切に設計・施工されているかどうか確認し、不具合があれば改善する。
②地中に雨水がほとんど浸透していかない、という前提で排水設備の見直しを行い、不足している排水設備を追加する。 -
専用庭の陥没
①既に年数が経過して雨水による締固めが自然に起きているため、土の追加および締固めにより今後陥没は起こらなくなる。
なお、全てを施工するには、資金が不足していたため、優先順をつけ、雨水排水不良に対する改修を先に実行し、専用庭の陥没に対する改修は7年後に実行する計画とした。
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最後に
建築設計の業界は、比較的分業が進んでいることもあり、建築・構造・設備が各々で動く傾向がある。ましてや、会社の規模が決して大きいとは言えないマンション改修の設計コンサルタント業界においては、構造や設備に係る業務を外部に頼っているケースが多くみられるだけでなく、新築に係る実績が非常に少ない。これでは不具合や課題を解決するための知見がどうしても不足してしまう。
今回のケースは社内に建築・構造・設備の専門部署を有し、新築設計も数多く行ってきた翔設計であればこその原因究明であったと自負している。 経験豊富かつ多角的な視点で解決を導き出せる総合コンサルタントの活用を強く推奨したい。
PROJECT STORY
雨水排水
マンション外構問題への構造的アプローチ
事例詳細「原因不明の浸水被害」に悩む建物の原因を発見し解決するまで
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建物
マンション
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課題
改修・長寿命化 構造・耐震補強 防災力向上
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関連サービス
大規模修繕コンサルタント 防災・耐震コンサルタント